去年の夏、ある人から、「山ももはね、それはそれはおいしいよー」っと聞いて以来、ずっとずっと、山ももを食べてみたいと思い続けてきた。
だって見たことすらないし、「山もも」という名前からして、いかにも自然の恵みって感じで、これはもう妙なる美味に違いないと思ったのだ。
そして今年の6月に入ってまもなく、テレビのニュースでハウス栽培の山ももを収穫する様子が流れた。表面がブツブツしていて、ルビーのような美しい色をした実、それが山ももだった。ハウスものは東京に輸送されて、高値で取引されるのだと聞いて、ますます一度は食べてみたいと思った。
そうこうしているうちに6月も半ば。毎日のように通る、近くの歩道を歩いていてふと気づいた。 歩道の上に、赤黒い実がいくつとなく落ちてつぶれている。もしやこれは、と上を見上げると、これこそが山ももじゃないの。あちゃー、灯台下暗しってこのことね。
去年も確かにこの道を通っていたはずだけど、汚いなあと思うだけで、何の実なのか気にもとめていなかったのだ。
そもそも山ももは高知県の県花。その気になってみると、学校や公園、あるいは街路樹として、あっちこっちに植えてあるのだ。そうした木は背も高くて、だれも見向きもせず熟して落ちるがままになっているようだ。
あっちこっちになっていても、やっぱり買わなきゃ食べられない。そんなわけで、日曜市に行ってみると、あったあった。
直径が2cmくらいの、やや大きめで色もあざやかな「広東」と、小粒で赤黒い「亀蔵」の2種類が売られていて、おじさんが、「大きい方が酸味があって、食べごたえがあるき」というので、私は広東を買った。
さてそのお味はというと、うーん、まあこんなもんですかね。なんというかさっぱりとした甘みで、酸味もそれほどじゃないし。ひかえめなお味とでもいいますか。
あたりが悪かったのか、期待したほどの味ではなかった。小さくて見栄えはしないけど、店で味見をさせてもらった「亀蔵」の方が甘くておいしかったように思う。
それにしても、かれんな山ももに、「広東」「亀蔵」とはいかがなものか。どうせなら「ルビー」に「ガーネット」とかさ。バタ臭くてあかんというなら、「サンゴ」と「紅サンゴ」なんてどうよ。
ともあれ、この季節にしか食べられない、真紅のガラス細工のような美しい果実。それが山ももなのだ。(味はまあおいといて)