お店にしろ瓜が並び始めた。しろ瓜は、漬物以外で食べたことがないものだから、これまで生では一度も買ったことがなかった。でも今は、我が家にはヌカ助くんがあるもんねー。と、ちょっとウキウキした気分で早速購入。
きれいに洗った瓜をまな板に乗せ、縦二つ割にしてスプーンで中の種をかきだす。これこれ、これがやりたかったのだ。
田舎のおばあちゃんは、瓜やキュウリの粕漬けを作るのがとっても上手で、私の大好物だった。まだ私が小学校にもあがらないころ、庭先にむしろを広げて、畑で作ったたくさんのしろ瓜を並べ、おばあちゃんに教わりながら、瓜の種をとった思い出がある。
確かスプーンじゃなくて、10円玉のような硬貨を使ったのではなかったか。それが幼心にとても楽しかったのだろう、しろ瓜を見るたびに、そのときの記憶がよみがえるのだ。
毎年春になると、おばあちゃんは、山で採ってきた蕗や、山椒の花、葉、実をそれぞれ佃煮にして、あめ色に漬かった粕漬けといっしょに送ってくれた。荷物のふたを開くと、佃煮の水分でシナシナになった白い封筒が入っていて、そこには手紙といっしょに兄と私へのお小遣いが入っていた。
まだ子どもだった私にとっては、山椒の花の佃煮なんて、それほどおいしいものではなかったけれど、今思うとなんとぜいたくな食べ物だったのだろう。
年々、おばあちゃんが作る佃煮の味が濃くなってきて、「蕗の佃煮なんて、お湯洗いしないと食べられないくらいに辛い」なんていう話を母から聞くようになったころ、おばあちゃんは心臓発作で突然いってしまった。
すでに結婚して東京に住んでいた私は、当時いろいろあって、お葬式にもいけなかった。そのことへの後悔の気持ちが、なぜか今頃になって激しくわいてくる。
今年の秋、新しい酒粕が出たら、粕漬けに挑戦してみよう。それにしても、酒粕が出るのは秋で、しろ瓜が採れるのは初夏。それまでの間、漬け床はどうしておくのだろう。おばあちゃんに聞いておけばよかった。気づくのが20年遅いのだ。